なんだかここも賑やかになってきたものだな。石峰優璃は目の前で頭を悩ます山吹薫に柔らかく微笑む。
さてさてほんの概論ではあるが、心不全の事は理解できただろう?それならばここからは私たちの出番ではあるな。つまりはリハビリテーションの話だ。
そうですね。心不全といえどリハビリは必要です。もちろんそれは適切な治療と並行して行われるべきではあります。疲労や倦怠感の中で可能な範囲でリハビリを行わないと筋肉量が低下し、それが相対的に運動時に必要なエネルギーの増加をきたす事で、結果としてより全身の耐久性は低下したり、心不全を繰り返してしまうといった事にもなりかねません。
そうね。それは正しいし、全てのガイドラインには包括的な心臓リハビリテーションは高いエビデンスを示すわ。だけどもエビデンスが高いからと言って全ての患者様に適する。とは言い難いのではないのかしら?
高橋美奈の言葉に、山吹薫はそうですね・・・と眉間にシワを作る。確かにそうだな。と石峰は一度返事をする。美奈ともずいぶんと長い付き合いになった。そうとも思う。
ふむ。例えば急性心不全を例に出すと、同じ心不全の症状を来しておりリハビリテーションの指示が出る。しかしそれの原因が心筋梗塞だった場合には直ぐに運動療法とはいかない。プロトコルに従いまずはヘッドアップから、端坐位からと段階的に多くは進む。それは心筋自体のダメージにより初期より過度な運動負荷をかけることにより心破裂のリスクが高まるからだな。
運動負荷に伴い心臓は安定した安静時と比較してそれだけ働かなければならないわ。それ自体は心臓の負荷であって心筋が障害されてしまうとそれに耐える事が出来なくなるの。その最悪のシナリオとしてあるのが心破裂って訳。
確かに、お二人が言っていた心不全の原因をまず把握し、その時系列を知るという事は、心不全に至る原因は多岐に渡るから、いつも通りのリハビリが逆に患者様の負担になるという事ですね。
この新人君もようやく話が出来るようになってきたと石峰は思う。かつて後輩の成長をこんなに嬉しく感じた事があっただろうかとも思う。それはきっと自分が終わりを意識しているからだろう。
そうね。だからと言って今度は過度な安静を促してしまうと1日1日体は弱ってしまい、いつか動き出そうとした時に今度は必要以上に体の力を使わなきゃ行けないわ。それはそれで所謂、廃用症候群を進めてしまう。という事になるの。
なるほどですね。まずは原因の疾患やそれに至るまでの過程を把握して、原因別に心臓リハビリテーションを実施しなければなりませんね。何よりも主治医としっかり打ち合わせる事が必要です。
まぁそういう事だな。ならば新人君!普段から体の弱い私だ。心臓の機能も当然に弱く普段の激務に耐えかねず心不全の症状が出始めた。どうやら心筋梗塞では無いようだ。そういう私に君は・・・何をしてくれる?
またですか。と首を振る山吹の隣で、高橋がまっすぐと真剣な瞳のままに自分を見つめるのが石峰には分かる。なぜ自分がこういう質問をしてしまうのかは、今では少し分かるな。そんな視線を置き去りに石峰は頬杖をついたまま山吹に向き直った。
山吹薫の覚書65
・過度な安静は廃用をきたし、結果として後の生活の中で過度な心不全症状を与える。
・原因の時系列を知る事がまず必要。それによってリハビリの内容は異なってくる。
・なぜまたこういう聴き方をするのだろう・・・
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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